当たり前のことを、当たり前にやる。
難しいけれど、それが評価につながる。

プロのスノーボーダーになる夢に
見切りをつけ、たまたま鳶職人に。

私はもともとプロのスノーボーダーを目指して、15歳の頃からスノーボードのショップで働いていました。お金を貯めては、夏はニュージーランド、冬は国内の雪山にこもるという生活を20歳くらいまで続けていました。いつしか資金が不足するようになり、もう少しお金になる仕事に就こうと考え、ショップのお客様に相談しました。高い板を買っていく羽振りの良いお客様でしたが、その方こそ鳶職人だったのです。結局、知り合いの会社に紹介され、この業界に入ることになりました。だから、お金になりそうな仕事を求めた結果、たまたま鳶職人になった感じです(笑)。

最初はアルバイトでしたが、今の家内と一緒に暮らし始めたのを機に、スノーボードの世界に見切りをつけ、本格的に鳶の仕事をすることにしました。「ミリ単位までこだわる」ということを叩きこまれたのはその頃です。会社は違うけれど同じ現場で仕事に携わる人たち、心から尊敬できる人たちに出会い、彼らから教わったのです。

仕事は楽しくなかったけれど、
「負けたくなかった」から続けた日々。

若い頃は、正直言って仕事を楽しいなんて全然思わなかったですね。最近の業界とは真逆で、当時の現場はとにかく厳しい。休憩はないし、夏場でも水を飲ませてくれない。きついだけの毎日でした。でも、仕事は続けました。理由は「負けたくなかった」から。

今も「負けたくない」は口癖で、周りから「誰と勝負しているんだ?」と突っ込まれます(笑)。答えは「自分」です。満足してしまったら、そこでおしまいという気がするんです。

そのせいか、いくら頑張っても「一人前になった」という実感はありませんでした。これからもずっとそうでしょう。材料や工法が新しくなれば、覚えなければならないことはどんどん変わっていきますから。この世界にゴールなどないのです。

身なりや挨拶がいい加減な職人は、
上のポジションなど目指せない。

仕事を楽しいとか面白いとか感じることはなかったけれど、嬉しい想いをすることはありました。同じ現場で働いた職人さんと、しばらくして違う現場で再会したら「お前、仕事ができるようになったな」と言われることです。自分の会社に良いところを見せようと思ったことはなかったけれど、第三者から評価してもらえるのは嬉しかったですね。

そして、鳶職人になって10年目に独立し当社を作りました。それからは走り続けてきただけです。

大事にしてきたのは、当たり前のことを当たり前にやるということ。身なりや挨拶をしっかりするといったことです。「職人は仕事さえきちんとやれれば良い」という風潮がある。悪く言えば「ろくに勉強もしてこなかったのだから身なりや礼儀は仕方ない」みたいなことですね。でも、それでは上のポジションは目指せない。だから私は社員に「普通のサラリーマンがやっていることを当たり前にやれ」と言い続けています。

みんなが嫌がることをやる行動が、
現場を動かし、自ずと評価は高まる。

「当たり前のこと」の一例を挙げると、現場で職人が集まる詰所を掃除すること。一日の仕事の終わりに、テーブルを拭き、吸い殻を片付けるといったことを当社の社員は行います。すると、だんだん他社の人たちもやるようになるのです。

みんなが気づかないこと、嫌がることをやってあげれば人は喜ぶ。そのためにやるわけではありませんが、それで自然と周りからの評価は上がっていくものです。

ただし、当たり前のことができない人は多いです。自分は若い頃、厳しい環境で育ててもらったから身につきました。当時は辛いとしか感じていませんでしたが、今は感謝しています。

これからこの業界に入る人には、まずは当たり前のことを当たり前にやれる習慣を身につけてほしいです。それが、あなたの、そしてあなたの会社の評価につながるわけですから。